大室山 無駄のない美

初めてこの山に出会ったのは20年以上前だろうか
その時はそれほど深く感じることはなかったが
妙に伊豆高原の大地と空気が気に入った

それからしばらく訪れることはなかったが
ここでひと月半暮らす機会に恵まれた

伊豆高原は3000年前の大室山の噴火によってできた
溶岩の大地だと知った

時を経て黒い大地には草木が茂り
なだらかな高原は別荘として開発された

何万年もかけて南から移動してきたいくつもの火山島は
日本と接続して新しい大地となった

それが伊豆だ

その中でもお椀をひっくり返したようなプリン型の山は
伊豆高原という若々しい大地を生んだ

富士山とも関係が深い磐長姫が生んだのは
火の神々だという

新しい火山の物語を伝えているのだろう

2月の第2週には山焼きが行われる
シンプルで美しい外観は火によって保たれる

山の頂上に登るとすべてを見渡せる
富士山、伊豆諸島、房総半島、伊豆半島の山々

海も山も、大地も街も、手の届く範囲
鳥になって、飛んで行きたくなる

時に風は強く、全身が大きくなびく
驚きと感動と恐れに眠っていた感覚が蘇る

標高580メートルの山
そこには人間を震わせるパノラマな世界がある

この山に会いに来たのだな
正月飾りを下す七草がゆの日

穏やかな日和の大室山

パラグライダーは風に乗り山すそを走る
大空には富士に向かう白い雲が喜ぶ
西の空には七色に輝く彩雲が姿を現す

自然と観光の現場に出ようと決めた春
飛騨、京都、箱根、そして伊豆を体感

生活体験を兼ねた第一幕はここで終える

伊豆を出ずる数日後は、わたしの誕生日
第二幕が始まった

高原の道をハッピーバースディと口ずさみながら下る
伊豆高原駅から、熱海、小田原経由で浦和に帰る

無駄のないシンプルな美と喜び
それこそがわたしの心をひきつけた

旅とは・・・